糸村語録⑤~そんなこと言われたらやるしかないじゃん

またいつものように、鑑識の村木さんに無茶なお願いをするシーンでした。

己の限界を認めることで初めてその限界を超えることができる と誰かが言ってました。

村木さん、限界なんて幻想ですよ。

サラッとスゴイこと言いますよね。
今回の放送は次の放送の時間まで、こちらで見ることが出ます。

tver.jp

確かに自分で自分の限界を決めてしまっている事ってありますよね。
人に言われて気がついたりすることも。

スーパーで働いていた時のことです。
それまで生鮮センターから仕入していた鮮魚部門を、店長の気まぐれで、何の準備もなくいきなり店内加工に切り替えることになって。
もちろん誰もやる人なんていないし、そんなに急に新しい人が来てくれるわけでもない。ほんと滅茶苦茶。

店長に「お前がやってくれると助かるんだけどな」と言われて、え?どういうこと。

私は自慢ではないが、それまで魚を捌くなんて、小学校の低学年の頃に自分で釣ってきたハゼを母親に教えてもらいながら、天ぷら用に何匹か開いたそれだけです。
本当にずぶの素人。

一応店長の話は打診の体裁をとっているけど、実質命令。
また店長の病気が始まったなぁ...。

まぁ、それで私が魚屋さんの仕事を始めたわけなのですが、仕事が増えたって、今までの仕事を免除してくれるわけでもない。
もういっぱいいっぱいのところに、さらに右も左もわからない、誰も教えてくれる人がいない仕事を抱えてしまうことになりました。

しばらくは本当にまともに寝る時間も取れませんでした。
もともと一日15~16時間働いていたところに、仕事が増えて、さらにわからないことだらけなので仕事の後に勉強です。毎日ヘロヘロでした。
店長は事務所で毎日大いびき。さすがにその時は、殺意が芽生えましたよ(笑)(笑)。

それでも少しずつ慣れてきて、なんとか売り場の体裁も整うようになってきた頃、あるお客さんからお刺身の盛り合わせの注文をいただきましてね。
10000円程度の注文だったのですが、さすがにそれは無理だよって思いました。
だって、やっとマグロのサクどりと冷凍鮭の切り身、あとはアジやサバの3枚おろしができるようになったころですよ。お刺身と言えば、まぐろのブツ切りと、アジのタタキくらいしかやったことがない。
店長にも相談して、お断りして、知り合いのお魚屋さんを紹介するつもりでいたのです。

毎日買い物にいらっしゃる方でした。
そのお客さん、いきなり作業場の方にやって来て、「お刺身はどうなったの?」って。

かくかくしかじかと事情を説明していたら、言われてしまったのです。

「なに言ってるの!私はあんたにやってもらいたいのよ。できるから大丈夫よ。あんたがやりなさい。」

今度、米寿の誕生日を迎えるので、皆がお祝いに集まってくれる。そのお返しに、皆にお刺身をプレゼントしたいのですって。

そこまで言われてしまったら、もう断る理由はありません。
1週間だけ時間の猶予もありました。また寝ずの勉強です。
魚の選び方、盛り付けのテクニック、その他なんでも、そのお客さんに恥をかかせたくない一心です。

お刺身をお届けした翌日、

「みんな、おいしい、おいしいって、喜んでもらえたよ。またお願いするね」

って言っていただいて、あの時はほんと、「報・く・わ・れ・た」って思いました。

それ以来、そのお客さんには、いろいろと気に掛けていただいて、お刺身はもちろんですが、例えば年末になれば、最高級本チャン紅鮭の新巻き鮭を何本も注文いただいたりして、とてもお世話になりました。
ちょっとお金持ちの方でして、これという時には、金に糸目をつけない、いつもいいものばかり買っていただいていました。

また言われちゃったのが、「どうせ買うなら、あんたのところから買いたいのよ」って。

この人の前では、いい加減なことはできないな、そういう思いでいっぱいでしたね。

以上、限界なんて幻想ですよ、というお話でした。

あ、いつもの「私に3分だけ時間をいただけますか」ですが、今回は6分16秒でした。
かなり長めでしたね(笑)。